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あの時の私は必死だった。 追いつきたくて、 先生と生徒の関係から抜け出したくて。 ダージリンの香り 後 イルカ先生に修行をつけてもらうようになってからは、毎日があっという間だった。 はやく週末にならないか、とそれだけが私の頭の大半を占めていた。 アカデミー内に友達がいなくても、ちっとも平気だった。 少し年が下の子たちとじゃ、話しもろくに合わないし。第一、私自身あんまり仲良くする気がなかった。 その所為もあって、同じクラスの子たちはいつも私のことを遠巻きに見ているだけだった。 イルカ先生は私のことをちゃんとわかってくれている、という事実だけが今の私を支えていた。 春先から始まったこのイルカ先生との修行も、気づけば秋になっていた。 「よーし、今日はここまでだ。よく頑張ったな。」 「はぁー今日も疲れたぁ〜」 「まぁ、だいぶも色々出来るようになってきたじゃないか。」 「ホント?!えへへ〜私がんばってるもーん。」 あんま、調子にのるなよ。 と、いうお小言はイルカに誉められたことでほくほくしているの耳には届いてはいなかった。 「ふぅーじゃあ、あれだな。久しぶりにオレのとっておきでも出してやるかー。」 そう言ってイルカは持ってきた自分の荷物をごそごそと探りはじめた。 「やったー!」 あれから、何度かイルカ先生はごほうびと称して私にダージリンティーを出してくれた。 イルカ先生には内緒だけど、初めは苦くて飲めたもんじゃない!と思ったけど 今ではすっかり味にも慣れて、むしろイルカ先生がだしてくれるこのダージリンティーに愛着さえあった。 「ん。やけどすんなよ。」 そういってイルカ先生は私に、見慣れたマグカップを渡してくれた。 青くて、水色のイルカが描いてあるマグカップ。 まんまじゃん、先生。って初めて見たときは思ったけど今は私の手に馴染んで、イルカ先生のダージリンティーはこれじゃなきゃダメとすら思う。 こくり。 一口飲むと、まるでイルカ先生の優しさみたいに、温かさが体中に染み渡っていく。 そんな私を、やっぱりイルカ先生は優しい眼差しで見ていた。 「この分じゃ今年こそちゃんと卒業できそうだな。」 「・・・・・・。」 言わないで、先生。 週末が終わるたびに、はやく次の週末にならないかなってわくわくしてたけど。 アカデミーに生い茂る木の葉たちが、一枚また、一枚と寂しそうに地面に落ちていくのを見かけるようになってからは、 週末がこなければいいって、思うようになっていた。 だって、ちゃんと卒業して私が下忍になったらこうしてイルカ先生のダージリンティー、 飲めなくなっちゃうんでしょう? 「?どうした?大丈夫だよ、今年のお前の頑張りはオレが一番わかってる。」 いつもなら、イルカ先生に誉められると飛び上がるほど嬉しいはずなのに。 なんでかこの時は、もうお前との先生と生徒の関係も終わりだな。って言われてる気がして全然嬉しくなかった。 「?どうしたんだよ、さっきからなんもしゃべんないで。具合でも悪いのか?」 心配そうにイルカはの顔をのぞきこんだ。 「違うよ・・・・違う。」 「ん?何が違うんだ?」 ・・・・・私、 イルカ先生のことが好きなんだ。 苦かったダージリンティーを我慢して飲んでたのも、 子ども扱いされるのがヤダって思ったのも、 週末が待ち遠しくてうきうきしてたのも、 誉められるとすっごく嬉しくなったのも、 卒業したら会えなくなるって、 分かって胸が苦しくなった・・・・・のも。 全部、イルカ先生が好きだからだったんだ。 「なんだぁー?黙ってたらわかんないぞー。」 「好き。」 「ん?」 「私!イルカ先生が好きなの!!!」 「ぇ。」 先生はびっくりしていたけど、 それが私が突然叫んだからなのか、私が言った言葉に対してなのかはわからなかった。 「・・・・・・・・帰る!!」 「え、ちょ、ちょっと待て!!!・・・・・待てって・・・行っちゃった、か。」 私はすばやくイルカ先生の元から家へと帰り、ただいまもそこそこに自分の部屋へと急いだ。 あ、慌てて帰ってきたから先生のマグカップ持って帰ってきちゃった。 どうしよう、明日アカデミーで会うけど・・・・気まずい・・・・よね。 はぁ〜 ため息をつき、ずるずる、とマグカップを手にその場にはしゃがみこんだ。 なんであんなこと言っちゃったんだろう。好きだって分かったとたんに告っちゃうなんて、 ・・・・私ってバカ? あぁぁああ、思い出すだけで恥ずかしい。顔から火が出るってこういうことなんだ。 なんて、よくわからない実感をはしていた。 明日から、どういう顔して会えばいいんだろう。 イルカ先生びっくりしてた・・・よね。 そりゃー生徒としか見てない、しかもイルカ先生なら教師になったばっかなのに、手のかかるヤツの担任で大変だーくらいにしか思ってなさそうだけど。 もしかして、返事聞くとかそういう前から失恋決定? 「シャレになんないし・・・・・。」 「はぁ〜。」 まぁ、でもいつまでもドアの前にへたりこんでいる訳にもいかなかったので、 は立ちあがって両親のいるリビングへと向かった。 「あら?、どうしたの?そのマグカップ。」 正直に話すには、恥ずかしすぎたのでお母さんにはごまかしておくことにした。 「ん、ちょっとね。いーよ、自分で洗うから。」 「そう?」 物分りがいい母なのか、あいまいな娘の態度にあえて追求することはしなかった。 その日は、あまりご飯も喉を通らなかった。 いつもなら、イルカ先生との修行の後はくたくたになってすぐに寝てしまうのに、 今日告ったこととか、イルカ先生は今頃どうしてるんだろう?とか、修行の時のイルカ先生って授業と違ってかっこよかったなとか、 いろいろ考えたら、なかなか寝付けなかった。 ・・・・なんか、私って恋する乙女みたい。 「うわぁ〜。/////」 自分で言ってちょっと恥ずかしくなった、であった。 でも・・・・分かりきってるけど、お前なんて生徒としか見てない。って先生の口からはっきり言われたら・・・・ やっぱりショックかもしれない。 それまで、イルカと自分の関係は先生と生徒であっても、どこか他のアカデミー生よりは距離は近いだと思っていた。 嫌いだったら、いくら担任でも休みの日に生徒に修行なんかしないよね。 でも、どこか不安で。きっぱりと「卒業してしまえば関係ない。」といわれてしまうことが怖い。 その日から、アカデミーでイルカ先生に会ってもあいさつをする程度でロクに話しもしなかった。 顔を合わせたら、あの時の事はどういうつもりだ?と言われてしまいそうで。 あきらかにはイルカの事を避けていた。 だって・・・はっきり言われたら。 そう思うと、あれ以来修行の場所へも行かなくなっていた。 そうしているうちに今年も卒業試験の日が近づいていた。 初めは、なんとかと話しをしようとやっきになっていたイルカだったがそのうちに卒業試験のことで、忙しくなってしまい の事も後回しになっていた。 あれ以来修行場所にも、来ないしな。 そのうち、話しをしにフラっと来るかもしれないと思ってずっと待ってたけど、ダメだったしなぁ。 「どうしたもんかね。」 ふぅ〜と息をはき、イルカは卒業試験に向けての準備をしていた。 好きだといわれた。 そりゃ、は二回もアカデミーを卒業しそこねてる手のかかる生徒で、 手のかかる子ほどかわいいとは、言ったもんだ。 なんとも思ってないワケじゃないんだけど、な。 ただ、イルカのそれはあくまでもを生徒としてだ。 を女として見るなんてことは、はなっから頭にない。 そんなこんなで、お互いにお互いの思いを抱えたまま試験当日はやってきた。 「、卒業おめでとう。」 「ぁ・・・・・イルカせんせー。」 「やっぱりここにいた。」 イルカがを見つけた場所は、1年前に試験に落ちてへこんでいたを見つけたのと同じ場所だった。 「よく、頑張ったな。」 「・・・うん。」 はすぐにでも、その場から逃げたかったが今のイルカからはそんなことは許さない、という空気がありありと伝わってきた。 「あのさ、だいぶ前のことだけど・・・・。」 きた。やっぱり、その話ししちゃうんだ先生。 「お前が、その・・・なんだ、オレを好きだっていったことだけど。」 「・・・うん。」 その先が、怖くて私はこのときイルカ先生の顔を見れずにいた。 「嬉しかったよ、正直。の事は、生徒の中でも特に気にかけてたし・・・・・けど。」 「やっぱり、お前はオレの大事な生徒の1人ってことは、変わらないんだ。」 言われてしまった。 ごめんな。と小さく謝る先生の言葉なんてまったく耳にはいらなかった。 それくらい、私はショックを受けていた。 これって、なんだか死刑の宣告みたい。 「?」 ダメだ。なにか言わないと。 泣いたらダメ。イルカ先生が心配する。これからは、下忍としてイルカ先生から離れてやっていくんだから。 「ハハハ、なに言ってんの。せんせー。そんなの、知ってるよ。」 これが、今の私に出来る精一杯のごまかしだった。 「そっか。」 「あ、これ。借りっぱなしだったせんせーのマグカップ。お返しします。」 「それは、ご丁寧にどうも。」 なんて言って笑いながらイルカ先生は受け取ってくれた。 私の手に馴染むことは、もうない。 「なぁ、?卒業してもたまには顔みせにこいよ。これでまた、ダージリン、いれてやるから。」 な?そう言って先生はアタシの頭をポンポンとなでた。 まるで、お前は一生オレの生徒だぞ。っていうみたいに あぁ、違った。卒業したらおしまいなんじゃない。 卒業したって、私は一生先生の生徒なんだ。 それ以上も、 それ以下でも・・・・ない。 パシンッ!! 乾いた音とともに、は自分の頭の上にのっていたイルカの手をはらいのけた。 「ぇ?」 その後のことは、自身もよく覚えていない。 この人にとって、しょせん自分は生徒でしかないんだ。 わかってたけど。ずっとずっと、先生と生徒なんだ。そう思ったら、ムカつくのも悲しいのとも違う、胸がすごく苦しかった。 「う・・・うぅっ。・・・ひっく。特別だっていったのに・・・・。」 そんなのも、生徒のうちでってだけだった。 周りに誰かいるかもしれないなんてこと、どうでもよかった。 とにかく、今の私にはこの涙を止めるすべなんてない。 誰かを好きになることがこんなに胸が苦しいなんて、今まで知らなかった。 それが、叶わない相手ならなおさらだ。 「うぅ。・・・うっ。・・・・ふ。私・・・バカみたい。」 その日は自分でも驚くほど泣いた。 家に帰ったら目を真っ赤にして泣いている娘に、お母さんがびっくりしていたけど なにも聞かずに、背中をなでていてくれた。 それから、月日は流れた。 アカデミーを卒業してもやっぱりイルカ先生のことが、忘れられなかった。 そして、あのダージリンの香りも。 きっと、イルカ先生は私なんかのことたいして覚えてないんだろうなー。 なんて考えると今でも、先生のことが忘れられない私はしつこいかもしれないな、とちょっぴり寂しくなった。 あれから、下忍になり必死に任務をこなした。 元々どんくさい私は、死に掛けたこともあったけどなんとか頑張って頑張って、 とうとう中忍にまでなった。 イルカ先生と同じ、中忍。 今なら、先生は私の事を生徒としてではなく、いちくの一として見てくれるだろうか。 だけど先生のことだから、きっと平気な顔で「お前は今でもオレの大事な生徒だよ。」なんていうんじゃないだろうか その日は、ホントに偶然だった。 任務が一緒だった同じく中忍の人からうまいラーメン屋がある、と教えてもらいじゃあさっそくといった具合で 任務上がりにその人とそのうまいラーメン屋とやらにむかった。 その先で、イルカ先生に出会うってわかってたら絶対別の日に行ったのに。 先生は、金髪の男の子の横に座っていた。 「イルカせんせーってば!オレおかわりしてもいいかー??」 元気のいい声が店に響いた。 「相変わらず、よく食うな、ナルト。いいぞ、好きなもん頼めー。」 あぁ、先生今度はラーメンで餌付けしてるんだ。 なんだか久しぶりにイルカ先生を見て、会いたかったけど、会いたくなかった気持ちがして でも、そのうちやっぱり会えたことの嬉しさと懐かしさがこみ上げてきた。 「どうした??さっきからぼーっとして。」 なかなか、中に入らない私を見かねてこのラーメン屋につれてきてくれた中忍の彼は私に声をかけた。 「・・・・?」 その声はぼっちりイルカ先生も届いていたらしい。 驚いた顔で私の方を見た。 「って、お前あの・・・・か?」 「あ、イルカ先生お久しぶりです。」 そう言って私はぺこりと頭をさげた。 「な、なんだ。えらい大人っぽくなったなー。一瞬誰かわかんなかったぞ。」 「イルカせんせー!!このねーちゃんだれだってばよ!」 金髪の男の子はおかわりのラーメンをすでにたいらげて、手持ち無沙汰だったのかイルカ先生にそうたずねていた。 「ん?オレの・・・・・元教え子だよ。」 その言葉に、今まで隣で黙って話しを聞いていた中忍の彼も納得したのか気をきかせて先に席にむかってくれた。 先生、やっぱり今でも私は生徒のままなんですか? それから、先生はナルトという金髪の男の子の分のお代を払い、未だに立ち尽くす私のほうにむかった。 「?・・・あの・・・、」 「ぁ、ちょっと待っててください。」 え?という、イルカ先生を放っておいて、私は一緒に来た中忍のもとに向かった。 「ごめん、今日は帰る。ラーメンはまたの機会にとっておくから。」 「え?ちょ、!オイッ!!」 急なことに戸惑う彼をそこそこに 「じゃ、お疲れ様!」 と言って、イルカ先生のもとに向かった。 「すいません、お待たせしました。」 いつのまにか、店の外にイルカ先生はいた。 「あれ?あの金髪の男の子は?」 きょろきょろと辺りを見回したり気配を探ってみたが、チャクラは感じられなかった。 「ナルトなら、先に帰したよ。」 「久々にとゆっくり話そうと思って、な。」 あ、その顔反則です。 そんな顔されたら、私・・・・・ 「少し、歩こうか。」 そう言ってイルカ先生は、少し前を歩き出した。 別れ方が別れ方だったので、なんとなく気まずい空気だった。 そんな、空気を先に破ったのはイルカ先生だった。 「お前、大人になったなー。会った時誰かわかんなかったぞ。」 「そりゃ・・・・あん時は、子どもでしたから。」 これでも今では先生と同じ中忍なんですよ、私。 「そっか。さっきの人は・・・彼氏?」 「違います!!」 あぁ、私ちっとも変わってないな。 イルカ先生のこと、相変わらずこうしてびっくりさせている。 「ぁ、すみません。急に大きい声だして。でも、違います。今日たまたま一緒の任務について。 おいしいラーメン屋があるからって誘われただけです。」 少しでも、身の潔白を証明しようと聞かれてもいないのにぺらぺらと私の口は動いていた。 「そっかー・・・あ。中忍になったんだって?」 「・・・・はい。」 今、イルカ先生がほっとしたと思ったのは気のせい? 私ったら、久しぶりにイルカ先生に会ったもんだから緊張でおかしくなってるんだろうか。 「オレと一緒だなー。なんか、こうやって教え子に並ばれるとオレも年取ったなって思うよな〜。」 そうですよ、その分私は大人になったんです。 先生、もう私は生徒なんかじゃないんですよ。 イルカ先生への気持ちが抑えられなくなりそうだった。 ・・・・だって、先生。知ってます?私中忍になれたらって、そしたら先生は私の事生徒としてじゃなくて女として見てくれるんじゃないかって、 あれからずっと、必死だったんですよ? 「・・・先生。」 「ん?なんだ、。」 「私、中忍になりました。」 「あぁ、すごいじゃないか。頑張ったな。立派な忍になるのがお前の夢だったもんな。」 「今でも、私は先生の生徒のうちの1人なんですか?」 私の言いたかったことを薄々感づいていたのか、今度は大して驚いてる風でもなかった。 「あのさ、オレ・・・おっさんだぞ?の周りには、その・・・オレよりも若いやつなんていっぱいいるんじゃないのか?」 「男は歳を重ねるごとに、味が増すんです。」 「アカデミーの教師なんて給料も高が知れてるし。」 「男はお金じゃありません、心意気です。」 「万年中忍だし。」 「経験は重ねてナンボですよ。」 「・・・・オレ、だぞ・・・?」 「知ってます。私は、イルカ先生がいいんです。」 「そ、そうか////」 そこまで、言われてもちっともひるまないにイルカは照れたようだった。 「先生?」 「まーなんだ、オレなんかでいいなら相手してやってくれ。」 照れるのをごまかすように、頬っぺたをぽりぽりと人差し指でかきながら先生は答えた。 !!!!!!! 「ホントに?いいんですか??」 「あぁ、そのかわりやっぱヤダって言っても返品不可だからな。」 「そんなことしません。やっと・・・・やっと生徒から抜け出せたんですから。」 ふふふふ、うれしーい。 は顔が緩むのを抑え切れなかった。 「?」 「なんですか?」 「オレ、ちゃんとお前の事好きだからな。 ・・・・・その、生徒としてとかじゃなくて。」 ・・・・先生、だからその顔反則ですって。 「あ、私・・・も先生が好きです。」 「なら、よかった。」 先生はあの時みたいにまた優しい顔で私の頭をポンポンとなでてくれた。 「そうだ。なぁ?」 「なんですか?」 「先生っていうのやめないか? ・・・・・オレたち、これからは・・その恋人同士なんだし・・・さ////」 あぁ、もう。 なんでこんなにもこの人は、私のことドキドキさせるんだろう。 「さー帰ってダージリンティでも飲むかな〜。」 「あ、私も!」 「お前は帰るの!」 えー まぁ、いっか。 これからは好きなときにいくらでもいれてもらえるもんね。 今度ゆっくり、ダージリンの香りをかぎながら どうして私と付き合ってくれることにしたのか聞いてみよう。 ね?イルカさん。 んきゃー 後半思ったより長くなってしまいました。 スクロールするの大変でしたよね。 すみませぬー。 途中切ろうかとも思ったのですが、どうしてもうまい切れ目が見当たりませんで。 イルカ先生がダージリン好きかどうかは、完全にワタクシの捏造です。 あ、でも生徒に餌付けしてるのはナルトで証明済みですよねー なんで、ダージリンティーかというとなんとなくよさげだったからです(笑 アールグレイと少し迷いました(笑 では、読んでくださってありがとうございましたー。 |